人気ブログランキング | 話題のタグを見る

space×drama2016の感想を様々な視点で載せていきます 。300文字以上の感想を各劇団が書いていきます。皆様もコメント欄に是非お書き下さい!


by spacedrama
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

見送った船

以前、ほんの少しだけ大道具に手を出していた時期があった。
当然の如く師匠が居て、たくさんの事を教わった。
性格的に「シス」みたいな人だったので、僕は頑張って「ジェダイ」の道を歩んだ。

それはさておき…。

師匠が作るセットが大好きで、僕は彼に感想を言った。

「セット凄いっすね」

すると師匠は

「お客さんが会場に入って、お金を払った事を納得できるかでけへんか、その最初のインパクトが俺らの仕事や。
最初の一瞬だけが勝負なんやから気合いも入るよ」

仕事のプライドは千差万別あるだろうが、僕は師匠のこの言葉が大好きだった。


特攻舞台Baku-団「病的船団」


会場を突き出ん勢いの船頭に期待が増す。
会場を埋め尽くす勢いの船は物語の扉絵であり、後は演者がいかに物語と客席から溢れんばかりのお客さんの心と時間を埋め尽くすかだ。

結果的には、とても観やすい作品だった。
実は、Baku-団さんの前回の作品は僕は肌に合わなかった。
が、「トゲ」があった。
今回は観やすかった。
が、「トゲ」がなかった。
作品の好みの違いは、あってしかるべきなので、個人的には、たとえ肌に合わなくても「トゲ」があるほうが大好きだ。


前置きさせて頂く。

あくまで僕の読み取りが浅く、そして僕個人のみの疑問と感想である。

開演前と開演後にというアンケートに戸惑った。
まず、開演5分前に突如言われたという事。
(トイレに行ってたので僕のみが突然に感じたのかも知れないが…)
文章をしっかり読む時間もなければ答も十分に読めない。
答の文も縮小されすぎていて、多種多様に意味を込めて「〇」をつけても他の答と意味を一本化されそうで怖かった。
そして観劇後。
もし、たとえどんなに素晴らしい作品だったとしても、わずか二時間で変わる意見ならば、その後新たなる別の二時間に簡単にひっくり返されるのでは?と疑問が沸く。
演出の意図かも知れないので、あくまで僕個人の疑問だ。
それも含めての意図かも知れないし…。


小さい頃から「病」によって自ら命を断つ人や、疲弊しきって死に至る人達が親類や知人に多かった。
母は現在も身体の障害と闘っている。
障害というのは規範に入れないのではなく、規範に追い出されて残酷に苦しめられているのだとも学んだ。
自分自身も数年間を病んで過ごした。
今でも定期的にビッグウェーブは来る。

今回僕は「病的船団」という作品にどのようにエグられてしまうのか、自虐的なカタルシスを求めた。

が、意外にもアッサリとしていて、言うなれば「精神障害」という題材を、例えば映画でいうR指定なしで易しく伝えたのかな?と感じた。

「病」を演じる出演者達は皆バランス良く安定した演技をしていた。
けれども自他共に、病んでいる時というのはバランスが悪く不安定でアンシンメトリーだと思うんだけど、やはり演出の意図なのだろうか?大きく気になってしまった。

どうしても期待していた、刺さる言葉、刺さる演技、刺さる場面というのは無かったのだけど、きっと僕側の問題なのだな、と納得した。

会場を見渡すと、大勢のお客さんは泣いていて、温かい眼差しがあって、会場には熱気がある。
きっと一人一人に刺さっているのだ。代弁しているのだ。
同席した友人達も「良かった」と口々に言っている。
NPO法人の会の方々も支援している。


脳の神経は数億数兆あって、それが切れて倒れた人は誰一人同じ線は切れていないらしい。
だから医者にとってもパターンなど読めないのだそうだ。
「障害」というのは人間の数以上にパターンがあり違いがあり個性がある。
だから今回の作品に、皆に刺さる同じ何かを求めるのは間違いなのだと思う。


皆は船に乗ったのだ。
航海したのだ。
そして今も乗っている。


僕も感想は言える。

「あの船?乗った事はないけどなぁ、遠くから見た事あるよ」



それでいいんだ。
それがよい事なんだ。


金 哲義/May
by spacedrama | 2008-09-01 23:34 | s×d2008