space×drama2016の感想を様々な視点で載せていきます 。300文字以上の感想を各劇団が書いていきます。皆様もコメント欄に是非お書き下さい!


by spacedrama
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南河内万歳一座『楽園』CQ/ツカモト オサム

昨年の太陽族に続き、活動歴30年を超える老舗劇団をスペドラが招致、南河内万歳一座が新作を引っ提げての登場である。
学生劇団出身で旗揚げから35年存続し、代表者が変わらぬ在阪劇団の最古参であろう。
これまでのほとんどの作品で、同じスタイルを護り貫く精神性は登場人物全員に反映され、概ね豪快で粗いが力強いストーリー構成の中に、繊細でノスタルジックなエピソードが挿入されてホロリとくる展開は王道的であり、役者主体で魅せる昔からの作り方も総じて観客に愛され、時に力業で強引にストーリーを転がすが、何をしても観客に許される。
観客に愛され、何をしても許される、そんな劇団を造ることが出来たら、それはもう最強と言えるだろうが、関西ではここがそのお手本となる劇団に違いない。

新作『楽園』は驚くほどストレートな楽園モノで、「楽園」を冠するタイトルでパライソが描かれない筈もないのだが、その楽園のモチーフに居酒屋を選ぶあたりが万歳一座らしい選択に思う。
應典院の円形の壁面に則して半円形に建てられた個性を主張する舞台美術は加藤登美子作。
最低限必要な来客用の食卓と椅子。
上手に「厠」と書かれたトイレ。
美術も演技も演出も、ことごとく昭和である。
「最後の楽園」と名付けられたこの居酒屋は、駅から遠く離れた場所に終電近くまでポツンと一軒だけ営業して居り、この先にはもう飲食店も存在しない、駅から最も離れた店なのだ。
ここが現実に存在するのか、しないのか、あやふやで不確かな楽園に集う人たちも、生死に関わらず特別な一夜に集まった特別な人たちである。
ちょうど今宵は100人以上もの死者を出した、あの列車事故の日。
折りしもの満月、ずらりと並ぶ自転車。
遠くに聞こえる波の音、海。
満月、海、自転車。
いつもながら情感をくすぐるアイテムの使い方が上手い。
特に自転車が秀逸だ。
突如、映画「ひまわり」のテーマ曲。
「ひまわり」は第2次世界大戦下、戦いに巻き込まれた夫婦が離れ離れになり、引き裂かれた運命の悲しみから戦争の悲惨さを描いた昭和期を代表する名画なのだが、特に脱線事故に絡む要素はない。
楽園繋がりなら「エデンの東」でも良かったかも知れない。
同じく昭和期の名作映画で、タイトルまんまの楽園モノだが、まぁこれ以上の伏線も不要と思えるので、敢えての「ひまわり」か?
内藤氏は単純明快な連想のもと、楽園→常夏→夏の花→ひまわり→ひまわり娘!と想像の翼を広げ、オープニングに用いた伊藤咲子が唄う「ひまわり娘」をエンディングにも採用し、最後まで明るく陽気に締めくくる。
2005年4月に尼崎で起きた、死者107人を数えるJR福知山線脱線事故から10年、未だ彷徨える魂に贈る内藤氏らしい鎮魂歌である。
いつも同じ電車に乗り合わせる人たちが、楽園に集う一時を描いた本作は、全員死んでるとも受取れるし、亡くなった一人を偲ぶために集まった仲間たちの群像劇とも言える。
または劇作家或いは演出家が創造した劇空間に、複数の解釈を与える意図を以って、他の登場人物に見えない亡者として自らが舞台上に潜り込み、ラストシーンは大きな月明かりの下、颯爽と自転車に跳び乗って、去って行く男の背中がイメージとして当初から在って、そんなラストを、実現するためのエスキースなのかも知れない。
念のため本年4月25日の月齢をしらべてみると、当然ながら満月には程遠い。
豪快なまでに荒唐無稽じゃないか!
カーテンコール、全員がお辞儀をしたまま時が止まり、引き割緞帳が閉まって行く。
近鉄小劇場が目に浮かぶ。
OMSと近小とスペース・ゼロが在った懐かしい昭和の匂いを思い出す。
今見たばかりの芝居が、遠い昔に見た芝居の記憶に近く、そんな風に思えるのかも知れないが、今もその様に感じさせてくれる劇団は、今やそれほど多くは残らない。
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by spacedrama | 2015-06-08 07:09 | s×d2015 | Comments(0)