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space×drama2016の感想を様々な視点で載せていきます 。300文字以上の感想を各劇団が書いていきます。皆様もコメント欄に是非お書き下さい!


by spacedrama
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無名劇団『無名稿 あまがさ』CQ/ツカモトオサム

着想は非常に面白い。
川端康成の小品「あまがさ」をモチーフに、坂田山心中を紐解くだけでも面白いのに、それを更に現代の劇団が作劇しながら演じて行く。
しかもその劇団の作家と女優は失踪中で、この3つのプロットをメタフィクションさせながら物語は進行する。
更にこの劇団は、無名劇団のメタフィクションである。
昭和7年の短編小説と心中事件、平成27年の仮定された舞台上に描かれた劇団とそれら全てを演じる実在の劇団、虚と実が交錯しながら真実を探ることの愚かしさを描く。
劇中劇では多彩な演出法で様式美とも窺える耽美な心中をパフォーマンスで描き、メインの現代劇ではリアルな演技で二つの時代にコントラストを与える。
心中する過去の二人に台詞を与えず特化させ、現代で失踪中の二人は舞台に登場せず劇団員の会話の中から二人を炙り出して行く。
二つの時代を対極的にとことん対比させながらの進行は、実験的ながら危ういバランスで保たれる。
情報媒体である新聞記事とインターネットから垂れ流される情報は、情報量の差こそあれ相変わらず真実を覆い隠した得体の知れないものである。
80年費やして、何の進化もない。
虚と実に大差なく、真と偽に判断なく、真実と虚偽の間にこの世は存在する。
ならば溢れかえる情報に惑わされることなく、真偽も虚実もないのなら、大衆が望む形の作品を作ることが使命であり信念であると、劇団の方向性を指し示す。
構造は複雑だが、言わんとすることは単純明快で、会話の端々に虚実と真偽を散りばめ積み重ねて在るのだが、それほど成果が得られないのが惜しい。
現代で失踪する二人が過去で徘徊する二人に比べ希薄になるのは否めないが、それを観客の脳裏に浮かばせてこその演出であろう。
対比して描くには、双方が対等に秀でる必要がある。
色々な事ができ過ぎて、盛りだくさんに詰め込み過ぎ、いささか散漫になったのではなかろうか?
脚本も演出も高レベルなので、それぞれ過度に装飾してしまい、見せたいものを見えにくくして損をしている。
劇構造を明確に示す舞台美術が良い。
上手と下手に振り分けた男女の対比、雨傘と水たまりに似せた中央の円形舞台、天から降る雨の雫を表す水滴の球、照明と相まって映える舞台を描き出す。
水滴は円形舞台の上のみに吊るし、球体はもっと小さくて良い。
by spacedrama | 2015-06-03 03:36 | s×d2015