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space×drama2016の感想を様々な視点で載せていきます 。300文字以上の感想を各劇団が書いていきます。皆様もコメント欄に是非お書き下さい!


by spacedrama
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Micro To Macroさんの『ハネモノ/ブルー・ヘブン』を拝見いたしました。

baghdad cafe'という劇団の泉と申します。
コトリ会議の山本君からおもしろい芝居があるよ見終わった後みんなに劇評も公表できるよと言われました。
劇評です。


Micro To Macroさんの演劇作品を見るのは二回目です。
昨年のspace×drama参加作品『スカイフィッシュ・ワルツ』は過去の後悔を取り戻そうとSF的に時間を越え、運命に抗おうとする人間を叙情的に描いた作品でした。
誇張的演技表現と、照明・音楽による空間の移送表現が際立っていました。
見終わった後、とても優しい気分になる作品だったと記憶しています。

その話の中で、主人公の男はとあるバンドの音楽を聴くことをきっかけに過去に戻ります。

今回の『ハネモノ/ブルー・ヘブン』も、とある音楽で物語が大きく動きます。
どうやらMicro To Macroさんは自身の表現と音楽との距離感が非常に近接であるようです。
その感覚をもとに演劇世界を構築するという動力が今回、気になりました。

物語は三部のパートから成っています。
心臓ドナーの弟を持つ姉が、レシピエント家族のことを探る探偵パート、
幼い頃の友人との不和に対する悔恨を神父に懺悔するDJのパート、
レシピエントの写真好きな青年と母その周囲の人間(不思議な羽を持つ少年=ドナーの少年)の病室パート。
三部のパートをしりとりのようなセリフのつなぎ方で、ミステリ仕立てに展開していました。
最終的に青年が自身の過去の真相を知り、トラウマと向き合ったところで祝福とともに物語は終わります。
青年がトラウマと向き合うきっかけとなるのが音(心音)・音楽(劇中のバンド、ハネモンズ)でした。
この巧みな物語の理由づけ部分こそ、石井テル子さんの、音楽を介しての演劇アプローチです。

人間が音・音楽をきっかけにコンプレックスやトラウマを克服しようとする。
彼女の演劇にはこのようなメッセージがあり、表現方法にもその姿勢が立ち現れています。

演劇人で音楽というツールを手がかりに演劇作りをされる方は多くいます。
さらにひとくくりに音楽といっても細分化されますのでツールとしてはさまざまな手段があります。
リズムやテンポを気にする方、高揚感のある音楽で空気を変相させる方、メッセージ性を高める補助として使用する方。
石井テル子さんの演劇は、音楽を基礎に置き、ツールとして演劇があるというような感覚を感じました。
どちらかというと根本的には歌劇に近いのかもしれません。

物語の導入はハネモンズの楽曲を作った少女と青年の母との出会いから始まります。
つまり音楽の誕生から物語が始まるというのは、物語と音楽の融合による石井テル子さんの演劇が始まったことを観客に示唆する表現と捉えることが可能ではないでしょうか。
そこから、彼女なりの音楽への最高の出会い方へのディレクションがなされていく。

この演劇は、彼女の音楽との邂逅の回帰を表現している。

その表現のニュアンスが爽快で美しく愛あふれるものであったことが、

よかったです。




あくまで、そのような見方を個人的にした上で生演奏部分以外の役者の演技、また演出が気になりました。演出・演技は、物語の提示とキャラクターの提示、また芝居におけるエンターテイメント性が高く表現されていました。その物語る姿勢が幾分強調されて、最終的に音楽と演劇が高濃度に融合し切れなかったような印象を受けてしまいました。物語部分にもう少し音・音楽との関わりをもった演出をしてもよいのではないでしょうか。心音をバスドラムで表す表現はその意味で成功していると思います。
もちろん物語としてはマイノリティへの愛・応援と音楽の邂逅が巧みに描かれており、終演後やはり今回も優しい気分で劇場を後にできる作品でした。それゆえに、表現の志向性がさらに一本化した作品を期待してしまう、そんな演劇作品でした。

何より歌を唄っている石井テル子さんの表情が素晴らしく輝いていたことがとてもよかったのでとてもよかったです。

以上です。


●日時 
8月21日(日)13時の回
●舞台 
間口いっぱいまでの舞台。センター奥、上手・下手両側奥に90cmほどあげた島舞台が3つ。
島舞台がバンドスペース。下手側にドラムとベース。舞台上にテトラポッドのようなオブジェ多数。
合計で10本ほどのオブジェの柱が無造作に備えられている。海の近くを表現する。
上手島舞台前にベッド。ベッドのまわりのオブジェには写真が貼られている。
テトラポッドとの絡み方に記憶のイメージを感じる。
バンドメンバーの制御に関心。彼らは前説から最後まで舞台上にいる。
天井に降らし装置。ラストで大量の羽が舞う。美しい。
●客層 
20~60代のほぼ全年齢層。男女比もまばら。80~90名、ほぼ満席。



baghdad cafe' 
作・演出担当  泉 寛介
by spacedrama | 2011-08-23 21:01 | s×d2011